Archive for 6 月, 2010

ギリシャ、ポルトガル、スペインからハンガリーへ、EU周辺諸国の財政破たん

水曜日, 6 月 9th, 2010

2010年6月9日(水)

「ハンガリー型ローン地獄」の爆発は近いかもしれない。
ハンガリー政府は緊急閣僚会議を開催して国家予算の赤字幅を対GNP比で3.8%以内に圧縮する方針であることを明らかにした。これは先に自ら、「我が国はギリシャ型の財政危機に瀕しており、債務不履行の公算が大」と公式に宣言をするという愚行の影響から脱するための行動であるとThe New York Timesが報じている。
ハンガリーは、2008年の金融危機に直撃され、前政権はIMFとEUから2.5兆円の緊急支援を受けてしのいだという経緯がある。4月に政権に就いた現政府は、「前政権は予算の数字をねつ造し、経済の実態について虚言を弄した」と言い切ってしまったのである。
この不注意な発言(gaffes)が先週世界の金融界を震撼させたことを反省して、「実態はギリシャ危機のようなものはない」と前言を訂正した。
同時にEUとIMFの当局者も「ハンガリーが債務不履行を起こすことは考えられない」と金融界に向けて動揺を鎮める発言を相次いで行った。
ルクセンブルグで開催中のEU財務相会議の席上Dominique Strauss-KahnIMF専務理事は、「ことハンガリーに関して恐怖要素(“element of fear”)などというものは存在しない」と断言した。
またルクセンブルグの財務大臣も、「問題は、ハンガリーの政治家が余計なことを言い立てること以外にはない」とコメントした。
この結果、ハンガリーの通貨フリントはやや持ち直し、ハンガリー国債も価格が上昇したが、市場関係者は「ハンガリー政府の政策は依然不透明であり長期国債投資に機関投資家が戻ってくるところまではいかない」と言っている。
Orban現首相は昨年12月に、当時の社会党政権が、2006の対GNP赤字幅9.3%を2009年に4%まで圧縮に成功させた緊縮政策を徹底攻撃し、経済成長路線をとるべきと主張、減税と雇用拡大を求めた。
そして4月の総選挙では、「赤字国家予算の幅を7%にまで広げて経済拡大をはかるべし」とのキャンペーンを張って政権奪取に成功した。しかしその結果、緊縮を求めるIMFと、経済成長を求める国民の間に挟撃されることになった。
局面打開を図ろうとして、Orban新首相は就任後、EUのJosé Manuel Barroso大統領に、EUの財政規律ルール適用除外を求めたが拒否に会い、当てつけのごとく「ハンガリーはギリシャ型の財政破たん国になる」と触れて回った。EUを悪者にして国民の政権の経済運用能力への期待レベルを下げることを図ったのである。
同首相は「国会の2/3の議席を獲得して、なんでも可能」とのおごりと錯誤に陥ったのである。先の発言は、国内有権者にのみ話をしているつもりだったが、どっこい国際金融界は、その言葉を聞き逃さなかったというのが、今回の騒ぎの真相である。
Goldman Sachsも、「ハンガリーが、ギリシャほど財政状態が悪いというのは事実に反する」との報告書を出している。同国の対外債務額はギリシャの半分であるし、IMFの支援はすでにうけて来た。また通貨ユーロを採用していないので、独自の通貨と金利による金融政策と財政政策による調整機能ははるかにギリシャより優っている。
しかし、ハンガリー経済のそこは浅く、弱体であることには変わりがない。これから大問題となると考えられているのが、一般家庭が、外貨建ての住宅ローンを、外国銀行から直接借りていることである。多くの失業中の人々にもはや支払い能力はなくなった。そして通貨フリントの切り下げによって、その借金の重圧感はましている。
これこそ「ハンガリー型サブプライムローン」の破綻の危機である。いつ爆発するのであろうか。

中国の低賃金による世界の工場化の時代は終わった

水曜日, 6 月 9th, 2010

2010年6月9日(水)

Financial Times、The New York Times、The Wall Street Journalの3紙が一斉に中国での外資企業における労働争議の頻発を取り上げ、中国における「低賃金労働のみを目的にした製造業の工場進出ビジネスモデル」の終焉を報じている。
Financial Timesは、台湾の製造受託サービスで世界最大の鴻海精密工業(Foxconn)が台北で開いた株主総会の席上、「本土進出の条件として、工場のみならず、従業員住宅や福利施設を含めた一大地域社会を建設することを引き受けてきたが、このモデルから脱却する」と明確な方針を打ち出した。
同紙は、「Factory City Systemを見直し」と見出しに付けているが、ちなみに同社の深センの「企業村」には27万人の従業員が住み、Apple、Dell、Hewlett-Packardの製品を作るために働いている。
同社会長は、「だいたい従業員の生活の場まで提供しているために、従業員の自殺の責任まで云々されることになってしまった。今後は社宅を地元自治体に売却していく方針」であると語っている。
同社はすでに、従業員の賃金の大幅な引き上げに同意しており、今年1月からの引き上げと合わせると、2.2倍になる。同社はこのコスト上昇を発注元の米国の企業に転嫁する交渉を来週から始める。中国は、もはや「タコ部屋労働キャンプ」的な経営を許す場所ではなくなった。
一方The Wall Street Journalは、今回標的となったホンダの広州を基幹工場とする各地に分散した同社の下請け工場群における激しい労働争議を、「中国の労働者は賃上げのみならず、影響力(clout)を獲得」との見出しのもとに報じている。
ホンダのストライキは基幹工場で24%の賃金と手当の引き上げで妥結したが、まさに中国の経済評論家の言葉のごとく、「中国の労使環境の分水嶺(a watershed)」となったのであり、これから「燎原の火の如く」中国全土に拡大していくことは必至である。
中国政府は、急激な経済成長がもたらした、個人と地域での大きな所得格差と不平等問題に取り組むことを昨年来強く打ち出しているので、今回のストライキについては取り締まりを目的とした介入は表向き行っていないし、マスコミ報道は規制しつつもある程度許している。そして並行して中国政府と地方政府は矢継ぎ早に最低賃金の大幅な引き上げを発表を行い民意に沿った姿勢を打ち出し始めた。
今回の労働争議の背景には、10%近い経済成長率を支えるための労働力供給のひっ迫問題がある。「一人っ子政策」の影響で若年労働力の供給が急速に減っていて、本年になって、有効求人倍率が初めて1.0を超えたのである。
The New York Timesは、ホンダに対してはすでに4工場がストライキの標的となったがこれが下請けを含むた工場群に波及しないという保証はないとしている。そして日本企業特有の問題点として、中国人従業員の幹部登用を行わない労働政策にもおおきな問題ありと鋭く指摘している。
欧米企業は中国消費者を直接顧客にするところは別として、生産拠点として利用してきたところは、中国に見切りをつけ工場を続々とベトナム、フィリッピンなど東南アジアに移し始めている。
時代の動きは激しい。来年からはアフリカが焦点となるはずだ。中国はアフリカの資源と労働力を求めてすでに、日・欧米の先手を打って行動を開始しているのは歴史の皮肉である。

中国ホンダの労働争議の持つ意味 (5月31日)

The New York Timesは、「長年にわたって一日12時間、週6日、単調な組み立て作業を低賃金で働くことを強いられてきた労働者がものを言い始めた」とホンダの工場で起こったストライキを伝えている。そしてそれを、「いまや中国の収入格差(income inequality)、インフレ、高騰する住宅価格との戦いのシンボル」となったと論評している。
そしてこの件の中国のメディア報道に注目している。
「中国政府は今度のストライキをある程度のところまで許容するつもりで、先週国営メディアも大々的に報道させていたが、土曜日なって、労働争議の全国的な波及を恐れて突然報道を全面的に禁止した」と変化を伝えている。
また一時的とはいえストライキ報道を許した(unusually permissive)のは、「共産党としても国内に広がる所得格差に対する不満解消に取り組む必要が出てきたということだ。労働者が低賃金にあえいでいる現状が社会問題として放置できないところまできている」と推測している。
また同紙は、ホンダの工場で働く労働者は、若者がほとんどで、政治的意図はほとんどなく、「月給を800元上げてもらえればストライキは止める」とのインタビュー結果を伝えている。
現在のホンダの広州工場における平均賃金は、150ドル/月(15000円)であり、これに117ドルを上乗せしてほしいと言っているのがその要求である。
一方Financial Timesはさらに詳しく、「ホンダの工員の月収は、900-1500元で、これを2000-2500元まで上げることを要求している」と伝えている。ただし蚕棚式の部屋代はタダで、食事は格安であることは勘定に入れる必要はある。
いずれにせよ中国の若者は、月給15000円すなわち年収18万円で、週6日、一日12時間働いて、ホンダの車を製造し、AppleのiPadを製造している。われわれの着るシャツがなぜかくも安くなっているかの説明はここにある。
NYTはさらに続ける。「多くの若者は残業をいとわず働くが、残業代を加算してもその月収は3万円程度にしかならず、とてもアパートも買えず、小型車も買えない」
NYTは、なぜホンダ問題だけがクローズアップされたかについては、反日感情が底流にある中国社会ゆえに、「ホンダでの低賃金問題をやり玉に挙げるのは、中央政府も許容するであろう」とのメディア側の読みがあったとしている。
また「中国政府が今月になってAppleやHewlett-Packard製品を製造する台湾系のFoxconn社における自殺者が続発したことの報道を許可したことも注目される」としている。
政府系のThe Official China Dailyがその論説で、「ホンダのストライキは政府が賃金政策で無策であったことを証明している。今後労働争議を拡大させる可能性がある。さらには所轄の官庁が、賃金改革を約束しながら経営者側の圧力に屈して実行しなかったことは問題である」と政府批判を行ったことも極めて異例で、注目される。
ホンダが職場復帰を労働者に求めて配布した「誓約書」“Promise Note”には、「絶対に、労使対決・工場操業妨害・ストライキを指導したり、組織したり、参加したりしません」と印刷されていて、署名を求めている。これに労働者は「こんなものにサインはしない」と吐き捨てていると、Financial Timesが伝えている。
中国では日本の労働組合に対応する「工会」が職場ごとに組織されているが、これは共産党の直轄組織であり、経営側にも共産党代表が必ず入っているので、よほどのことがない限り党の方針から外れたことは、企業レベルで起こらない。メディアも政府にコントロールされている。
しかしインターネットで労働者は、賃金水準を知るようになったというのが大きな変化である。中国政府は、外資系企業のもたらす輸出収入に目を配りながら、賃金格差問題に「実験的に取り組み始めた」ということであろうか。