ギリシャ、ポルトガル、スペインからハンガリーへ、EU周辺諸国の財政破たん
水曜日, 6 月 9th, 20102010年6月9日(水)
「ハンガリー型ローン地獄」の爆発は近いかもしれない。
ハンガリー政府は緊急閣僚会議を開催して国家予算の赤字幅を対GNP比で3.8%以内に圧縮する方針であることを明らかにした。これは先に自ら、「我が国はギリシャ型の財政危機に瀕しており、債務不履行の公算が大」と公式に宣言をするという愚行の影響から脱するための行動であるとThe New York Timesが報じている。
ハンガリーは、2008年の金融危機に直撃され、前政権はIMFとEUから2.5兆円の緊急支援を受けてしのいだという経緯がある。4月に政権に就いた現政府は、「前政権は予算の数字をねつ造し、経済の実態について虚言を弄した」と言い切ってしまったのである。
この不注意な発言(gaffes)が先週世界の金融界を震撼させたことを反省して、「実態はギリシャ危機のようなものはない」と前言を訂正した。
同時にEUとIMFの当局者も「ハンガリーが債務不履行を起こすことは考えられない」と金融界に向けて動揺を鎮める発言を相次いで行った。
ルクセンブルグで開催中のEU財務相会議の席上Dominique Strauss-KahnIMF専務理事は、「ことハンガリーに関して恐怖要素(“element of fear”)などというものは存在しない」と断言した。
またルクセンブルグの財務大臣も、「問題は、ハンガリーの政治家が余計なことを言い立てること以外にはない」とコメントした。
この結果、ハンガリーの通貨フリントはやや持ち直し、ハンガリー国債も価格が上昇したが、市場関係者は「ハンガリー政府の政策は依然不透明であり長期国債投資に機関投資家が戻ってくるところまではいかない」と言っている。
Orban現首相は昨年12月に、当時の社会党政権が、2006の対GNP赤字幅9.3%を2009年に4%まで圧縮に成功させた緊縮政策を徹底攻撃し、経済成長路線をとるべきと主張、減税と雇用拡大を求めた。
そして4月の総選挙では、「赤字国家予算の幅を7%にまで広げて経済拡大をはかるべし」とのキャンペーンを張って政権奪取に成功した。しかしその結果、緊縮を求めるIMFと、経済成長を求める国民の間に挟撃されることになった。
局面打開を図ろうとして、Orban新首相は就任後、EUのJosé Manuel Barroso大統領に、EUの財政規律ルール適用除外を求めたが拒否に会い、当てつけのごとく「ハンガリーはギリシャ型の財政破たん国になる」と触れて回った。EUを悪者にして国民の政権の経済運用能力への期待レベルを下げることを図ったのである。
同首相は「国会の2/3の議席を獲得して、なんでも可能」とのおごりと錯誤に陥ったのである。先の発言は、国内有権者にのみ話をしているつもりだったが、どっこい国際金融界は、その言葉を聞き逃さなかったというのが、今回の騒ぎの真相である。
Goldman Sachsも、「ハンガリーが、ギリシャほど財政状態が悪いというのは事実に反する」との報告書を出している。同国の対外債務額はギリシャの半分であるし、IMFの支援はすでにうけて来た。また通貨ユーロを採用していないので、独自の通貨と金利による金融政策と財政政策による調整機能ははるかにギリシャより優っている。
しかし、ハンガリー経済のそこは浅く、弱体であることには変わりがない。これから大問題となると考えられているのが、一般家庭が、外貨建ての住宅ローンを、外国銀行から直接借りていることである。多くの失業中の人々にもはや支払い能力はなくなった。そして通貨フリントの切り下げによって、その借金の重圧感はましている。
これこそ「ハンガリー型サブプライムローン」の破綻の危機である。いつ爆発するのであろうか。
中国の低賃金による世界の工場化の時代は終わった
水曜日, 6 月 9th, 20102010年6月9日(水)
Financial Times、The New York Times、The Wall Street Journalの3紙が一斉に中国での外資企業における労働争議の頻発を取り上げ、中国における「低賃金労働のみを目的にした製造業の工場進出ビジネスモデル」の終焉を報じている。
Financial Timesは、台湾の製造受託サービスで世界最大の鴻海精密工業(Foxconn)が台北で開いた株主総会の席上、「本土進出の条件として、工場のみならず、従業員住宅や福利施設を含めた一大地域社会を建設することを引き受けてきたが、このモデルから脱却する」と明確な方針を打ち出した。
同紙は、「Factory City Systemを見直し」と見出しに付けているが、ちなみに同社の深センの「企業村」には27万人の従業員が住み、Apple、Dell、Hewlett-Packardの製品を作るために働いている。
同社会長は、「だいたい従業員の生活の場まで提供しているために、従業員の自殺の責任まで云々されることになってしまった。今後は社宅を地元自治体に売却していく方針」であると語っている。
同社はすでに、従業員の賃金の大幅な引き上げに同意しており、今年1月からの引き上げと合わせると、2.2倍になる。同社はこのコスト上昇を発注元の米国の企業に転嫁する交渉を来週から始める。中国は、もはや「タコ部屋労働キャンプ」的な経営を許す場所ではなくなった。
一方The Wall Street Journalは、今回標的となったホンダの広州を基幹工場とする各地に分散した同社の下請け工場群における激しい労働争議を、「中国の労働者は賃上げのみならず、影響力(clout)を獲得」との見出しのもとに報じている。
ホンダのストライキは基幹工場で24%の賃金と手当の引き上げで妥結したが、まさに中国の経済評論家の言葉のごとく、「中国の労使環境の分水嶺(a watershed)」となったのであり、これから「燎原の火の如く」中国全土に拡大していくことは必至である。
中国政府は、急激な経済成長がもたらした、個人と地域での大きな所得格差と不平等問題に取り組むことを昨年来強く打ち出しているので、今回のストライキについては取り締まりを目的とした介入は表向き行っていないし、マスコミ報道は規制しつつもある程度許している。そして並行して中国政府と地方政府は矢継ぎ早に最低賃金の大幅な引き上げを発表を行い民意に沿った姿勢を打ち出し始めた。
今回の労働争議の背景には、10%近い経済成長率を支えるための労働力供給のひっ迫問題がある。「一人っ子政策」の影響で若年労働力の供給が急速に減っていて、本年になって、有効求人倍率が初めて1.0を超えたのである。
The New York Timesは、ホンダに対してはすでに4工場がストライキの標的となったがこれが下請けを含むた工場群に波及しないという保証はないとしている。そして日本企業特有の問題点として、中国人従業員の幹部登用を行わない労働政策にもおおきな問題ありと鋭く指摘している。
欧米企業は中国消費者を直接顧客にするところは別として、生産拠点として利用してきたところは、中国に見切りをつけ工場を続々とベトナム、フィリッピンなど東南アジアに移し始めている。
時代の動きは激しい。来年からはアフリカが焦点となるはずだ。中国はアフリカの資源と労働力を求めてすでに、日・欧米の先手を打って行動を開始しているのは歴史の皮肉である。
中国ホンダの労働争議の持つ意味 (5月31日)
The New York Timesは、「長年にわたって一日12時間、週6日、単調な組み立て作業を低賃金で働くことを強いられてきた労働者がものを言い始めた」とホンダの工場で起こったストライキを伝えている。そしてそれを、「いまや中国の収入格差(income inequality)、インフレ、高騰する住宅価格との戦いのシンボル」となったと論評している。
そしてこの件の中国のメディア報道に注目している。
「中国政府は今度のストライキをある程度のところまで許容するつもりで、先週国営メディアも大々的に報道させていたが、土曜日なって、労働争議の全国的な波及を恐れて突然報道を全面的に禁止した」と変化を伝えている。
また一時的とはいえストライキ報道を許した(unusually permissive)のは、「共産党としても国内に広がる所得格差に対する不満解消に取り組む必要が出てきたということだ。労働者が低賃金にあえいでいる現状が社会問題として放置できないところまできている」と推測している。
また同紙は、ホンダの工場で働く労働者は、若者がほとんどで、政治的意図はほとんどなく、「月給を800元上げてもらえればストライキは止める」とのインタビュー結果を伝えている。
現在のホンダの広州工場における平均賃金は、150ドル/月(15000円)であり、これに117ドルを上乗せしてほしいと言っているのがその要求である。
一方Financial Timesはさらに詳しく、「ホンダの工員の月収は、900-1500元で、これを2000-2500元まで上げることを要求している」と伝えている。ただし蚕棚式の部屋代はタダで、食事は格安であることは勘定に入れる必要はある。
いずれにせよ中国の若者は、月給15000円すなわち年収18万円で、週6日、一日12時間働いて、ホンダの車を製造し、AppleのiPadを製造している。われわれの着るシャツがなぜかくも安くなっているかの説明はここにある。
NYTはさらに続ける。「多くの若者は残業をいとわず働くが、残業代を加算してもその月収は3万円程度にしかならず、とてもアパートも買えず、小型車も買えない」
NYTは、なぜホンダ問題だけがクローズアップされたかについては、反日感情が底流にある中国社会ゆえに、「ホンダでの低賃金問題をやり玉に挙げるのは、中央政府も許容するであろう」とのメディア側の読みがあったとしている。
また「中国政府が今月になってAppleやHewlett-Packard製品を製造する台湾系のFoxconn社における自殺者が続発したことの報道を許可したことも注目される」としている。
政府系のThe Official China Dailyがその論説で、「ホンダのストライキは政府が賃金政策で無策であったことを証明している。今後労働争議を拡大させる可能性がある。さらには所轄の官庁が、賃金改革を約束しながら経営者側の圧力に屈して実行しなかったことは問題である」と政府批判を行ったことも極めて異例で、注目される。
ホンダが職場復帰を労働者に求めて配布した「誓約書」“Promise Note”には、「絶対に、労使対決・工場操業妨害・ストライキを指導したり、組織したり、参加したりしません」と印刷されていて、署名を求めている。これに労働者は「こんなものにサインはしない」と吐き捨てていると、Financial Timesが伝えている。
中国では日本の労働組合に対応する「工会」が職場ごとに組織されているが、これは共産党の直轄組織であり、経営側にも共産党代表が必ず入っているので、よほどのことがない限り党の方針から外れたことは、企業レベルで起こらない。メディアも政府にコントロールされている。
しかしインターネットで労働者は、賃金水準を知るようになったというのが大きな変化である。中国政府は、外資系企業のもたらす輸出収入に目を配りながら、賃金格差問題に「実験的に取り組み始めた」ということであろうか。
ユーロ圏危機、「リーマンショックの再来」の連想呼び、株式暴落
水曜日, 5 月 26th, 20102010年5月25日(火)
週明けのNY株式は、欧州の金融危機に関する「恐怖」が支配し、大引けにかけて大きく値を下げ、ダウ平均は、先週金曜日に戻した125ポイントとほぼ同額の126.82 ポイント下げて、10066.57となった。
週末にスペインの地方銀行CajaSurを、中央銀行が接収したとのニュースが一気に欧州各国の財政破たんの連想をよび、ロンドンの銀行間貸借金利(LIBOR)がさらに上昇し、0.50969%となった。ユーロも金曜日の戻しを吐き出して、対ドルで4年ぶりの底値である1.2370まで下落した。
The New York Timesは、「この銀行の国有化は、それ自体は小さい問題だが、サブプライムローン問題に端を発したリーマンショックが小さい問題から、破局に進んだことを連想させているのだ」と解説している。
また、現在米国の金融改革法が、上下両院の個別案の可決後、調整案つくりの段階に達しており、すでに規制強化が確実視されている。しかし、「政治的駆け引き(horse trading)の結果、さらなる規制強化法案となってしまうのではないか」との懸念から、「規制強化が信用収縮につながるのでは」との不安心理を掻き立てている。
このように、市場では、「ファンダメンタルズの判断ではなく恐怖に駆られた動き」(out of fear and not any fundamentals)となり、リスク資産である通貨ユーロや株式から資金が引き揚げられ、比較的安全な米国国債へと流入している。
このあおりを受けたポンドも売り浴びせに遭っている。前労働党政権から引き継いだ巨額財政赤字を、新連立政権でも処理しきれないのではないかとの不安が市場を支配している。投機筋は、ポンドの下落に大きく張っていて、現在ポンドの空売り(short selling)は、買い持ち(long)の9倍に達している。
新政権は、「前政権が、選挙前に、(負けるとわかっていたので、新政権に付けを回すように)いわば焦土作戦(a scorched earth policy)に出て、各所で財政支出による支援を秘密裏に約束して回っていた」と暴露したことは、さらに市場に不安感をあおった。その結果ポンドは下げ(sterling negativity)を続けているとFinancial Timesが解説している。
欧州危機、米中対話、そして市場は「恐怖」に支配されている
火曜日, 5 月 25th, 20102010年5月25日(火)
週明けのNY株式は、欧州の金融危機に関する「恐怖」が支配し、大引けにかけて大きく値を下げ、ダウ平均は、先週金曜日に戻した125ポイントとほぼ同額の126.82 ポイント下げて、10066.57となった。
週末にスペインの地方銀行CajaSurを、中央銀行が接収したとのニュースが一気に欧州各国の財政破たんの連想をよび、ロンドンの銀行間貸借金利(LIBOR)がさらに上昇し、0.50969%となった。ユーロも金曜日の戻しを吐き出して、対ドルで4年ぶりの底値である1.2370まで下落した。
The New York Timesは、「この銀行の国有化は、それ自体は小さい問題だが、サブプライムローン問題に端を発したリーマンショックが小さい問題から、破局に進んだことを連想させているのだ」と解説している。
また、現在米国の金融改革法が、上下両院の個別案の可決後、調整案つくりの段階に達しており、すでに規制強化が確実視されている。しかし、「政治的駆け引き(horse trading)の結果、さらなる規制強化法案となってしまうのではないか」との懸念から、「規制強化が信用収縮につながるのでは」との不安心理を掻き立てている。
このように、市場では、「ファンダメンタルズの判断ではなく恐怖に駆られた動き」(out of fear and not any fundamentals)となり、リスク資産である通貨ユーロや株式から資金が引き揚げられ、比較的安全な米国国債へと流入している。
このあおりを受けたポンドも売り浴びせに遭っている。前労働党政権から引き継いだ巨額財政赤字を、新連立政権でも処理しきれないのではないかとの不安が市場を支配している。投機筋は、ポンドの下落に大きく張っていて、現在ポンドの空売り(short selling)は、買い持ち(long)の9倍に達している。
新政権は、「前政権が、選挙前に、(負けるとわかっていたので、新政権に付けを回すように)いわば焦土作戦(a scorched earth policy)に出て、各所で財政支出による支援を秘密裏に約束して回っていた」と暴露したことは、さらに市場に不安感をあおった。その結果ポンドは下げ(sterling negativity)を続けているとFinancial Timesが解説している。
2010年5月24日(月)
毎年恒例となった米中の「戦略と経済に関する対話」(U.S.-China Strategic and Economic Dialogue)が、クリントン国務長官とガイトナー財務長官が率いる200名に達する大規模な米国代表団が参加して、今日明日の両日北京で開催される。欧米のメディアは一斉にこの一大行事を取り上げている。
The Wall Street Journalは、「日本にたった4時間しか滞在せずに上海入りした」クリントン国務長官に焦点をあわせた政治的側面からの報道、The New York TimesとFinancial Timesはガイトナー財務長官に焦点を合わせた経済面からの報道を行っている。
もっとも注目されるのは、ガイトナー長官が、出発前に記者団に語った言葉である。その見出しは、「ガイトナー長官、対中姿勢軟化」(Geithner softens his stance on China)。「中国が最近内需拡大の努力をした結果、過度の輸出依存経済から転換していることを高く評価する」との発言を伝えている。
中国の経常収支の黒字幅は、2007年に対GNP比で11%であったが、昨年は内需喚起策の導入により輸入が急増して、その比は5.8%にまで収縮しているが、これを理由にして、米政府の対中姿勢を転換させた。人民元の切り上げが逆に米国経済に与える悪影響と、米国国債の最大の買い手である中国への配慮を優先したのである。
このように人民元切り上げに関する米国の従来の政策を軟化させ(soft pedal over the currency issue)、焦点を外国企業への一層の市場開放要求に移した。昨年から中国が取っている「政府調達に関する自国産業優先、外国企業を締め出し」政策(“indigenous innovation” rules)、いわゆる”Buy Chinese”の撤廃を強く打ち出すものとみられる。
いずれにせよ、今回の米国側の狙いは、経済政策で中国を追い詰めることを避け、対イラン・対北朝鮮問題での中国の協力を得ることに重点を置いている。
The New York Timesの見出しは、”U.S. Presses China to Punish North Korea for Ship”「米国、中国に北朝鮮制裁を求める」となっている。
対北朝鮮では、韓国軍艦の撃沈事件に対する非難に中国が同調することを求め、対イランでは同国に対する核兵器製造疑惑にまつわる国連制裁への賛成を求めている。クリントン長官が今回どれだけ中国側の一歩踏み出した同意を引き出せるかに注目が集まっている。
中国は、北朝鮮問題では「北朝鮮との歴史的関係」から単純に同調できない(”The historic ties between [...]
欧州危機、ダウ暴落の引き金に
火曜日, 5 月 25th, 20102010年5月21日(金)
ニューヨーク株式は、アジア・欧州の全面安の流れを受けて、昨年初め以来の下げで終了した。ダウ工業株30種平均は376ドル(3.6%)下落の10068.01ドルで引けたのを始め、S&P総合指数とNASDAQも大きく下げた。
この状況を、Washington Postは、「欧州の国家財政赤字と債務危機が、市場に重くのしかかり投資家をリスク資産から一斉に逃避(fleeing out of risky assets)」と報じている。
特に、ドイツの単独市場規制発表に続いて、欧州各国でも各種の規制強化(financial legislation)が実施されるのではとの懸念が強まり、さらには現在米国議会上院で審議中の金融規制法案によって銀行・証券会社の活動に大幅な規制が加えられる可能性が強まったため、金融株が大幅に下げている。
The Wall Street Journalは金融界の「市場のデータをどんなに分析しても、買い持ちのリスクを張ってもよいという理由はどこからも出てこない」(No matter how we slice all the chart data, there’s no reason for anyone to have any exposure to the long side of the stock market here)という意見を紹介している。
また、The New York Timesは、「欧州危機が米国市場を直撃(Europe’s Crisis Imperiling U.S.)」との見出しをつけ「世界中に不確実性の雲が覆っている。その不確実性が市場の不安定性の原因となっている」(There is a tremendous amount of global uncertainty and that uncertainty is breeding volatility)と、状況は全世界に及ぶ問題の反映と捕らえる意見に言及している。
そしてFinancial [...]
中国のインフレ懸念が現実化し始めた
木曜日, 5 月 13th, 20102010年5月13日(木)
ギリシャ危機は大規模なEUとIMFの支援発表によって、当面EU内での伝播が即座に起こることは食い止められたが、グローバル・シーンでは中国のインフレ懸念が鎌首を持ち上げ始めた。
4月の消費者物価指数は前年同月比2.8%上昇したが、これは過去18ヶ月で最大の上昇である。政府の今年の物価上昇目標値3%以内に入っているとはいえ徐々に過熱の様相を示し始めた。
銀行の新規貸し出しも単月で、11.3兆円に達しているし、不動産価格は前年同月比で12.8%の上昇となった。政府は不動産投機を抑制する政策をとっているので、不動産の売買高は減ったが逆に価格は押しあがっているのが現状である。
Financial Timesは、「賃金、穀類、野菜など何でも価格が高騰していて、今年のインフレ率は、5%以上になるであろう」との現地エコノミストの意見を紹介している。そのひとつの例は鋼材である。鋼材価格の急騰を受けて、鉄鋼会社は一斉に増産に走っていて、今年1-4月の粗鋼生産は、対前年比で27%も増えた。
インフレの先行きとして「今年後半はさらに高騰の可能性が高く、年央には反転すると見る政府の読みは甘い」としている。
また、The Wall Street Journalは北京発で「中国政府はこの事態にあっても、成長維持のために慎重姿勢を崩していない。過熱防止策として銀行の貸し出しに対する預金準備率の引き上げはおこなっているが、金利引き上げは、至上命題の二ケタ台の経済成長を阻害し、人民元の切り上げにつながるため当面行うことはない」と報道している。
金利はインフレ補正を行うと実質マイナスとなっているが、2008年12月から固定されたままである。インフレ懸念は、多少不動産投資が抑制されても、鉱工業生産が減速しても、そのリスクを消し去るものではないとのトーンで記事は結ばれている。
メキシコ湾岸事故で、深海油田の安全性に重大な疑問が生じた
木曜日, 5 月 13th, 20102010年5月13日(木)
4月21日に、ルイジアナ州沖66kmの洋上で深海底での原油掘削作業に従事していたオイルリグが爆発炎上し11人が死亡するという事故が発生したが、以来日量5000バレルの原油の海上への流出が続いている。
すでに流出した原油は300万バレルに達していて、土曜日には160km離れたアラバマ州のDauphin Islandに漂着し始めている。
今回の事故が、「未曾有の環境災害」になることを恐れたオバマ大統領以下関係閣僚は事故以来現地入りして、その関心の高さと真剣さをアピールしてきたが、検察当局も動き出した。
Eric Holder検事総長は、「司法省係官を現地に派遣し、沿岸警備隊と協議を開始させた。問題は今回の事故に関して過失(misfeasance)や、不法行為(malfeasance)がなかったかということだ」とコメントしたと、The Wall Street Journalが伝えている。
一方、油田の探査・掘削事業者であるBPは、事故発生以来懸命に流出防止策を講じてきたが、先週から行われた「巨大な鉄筋コンクリート製ドームを流出箇所の真上に降ろし流出を一時貯留し、上部の開口部から原油を抜き取っていく」という試みは失敗に終わった。
この作業は約1500メートルの深海底で行われているが、このドーム方式がこのような深いところで行われるのははじめてで、メタンガスが原因のドームの開口部の詰りという思わぬ障害に遭遇している。ドームの上部は、漏斗をさかさまにした形になっている。
もともと原油に含まれたメタンガスが急膨張してシールを突き破ったのが4月21日の爆発の直接原因と推定されているが、今回は、BPが油井に対して噴出を阻止するために投入したコンクリートが固まるときに発した熱が、メタンを気化させてしまった。
メタンガスは、深海の高圧下では海水と反応してシャーベット状の「メタンハイドレート」(icelike hydrates, a slushy mixture of gas and water)となるのは広く知られている事実であるが、これが上部開口部の内部に付着して詰りを起こしたと、BP側が説明している。このシャーベット化(Deep-Sea Ice Crystals)を防止するために凍結防止剤としてメタノールの注入を考慮中であるとしている。
また、BPは次の一手として莫大な量のごみを海底の噴出孔めがけて投げ込んで流出を止めるという、”junk shot”(ゴミ攻撃)を考えている。
この事故を起こしたオイルリグDeepwater Horizon号は、スイスに本拠を置くTransocean Ltdが所有するもので、BP社がリースを受けている。Transocean社のホームページを見ると、事故状況はSECに報告済みであるので、そちらを参照するようにとすることと、事故保険は総額560億円が付保されているとの簡単なコメントが掲載されているのみである。
ある試算によると、油井一本あたりの費用を100億円、毎日の支出が10億円で180日続くとして、総額約2000億円程度、そしてこれに損害賠償を加えても3000億円程度ではないかとしている。過去の大規模原油流出事故での損失総額が2500億円レベルである。
しかし、今回原油流出防止に失敗したこと、流出規模が格段に大きいことを考えると、「未曾有の環境汚染」が「未曾有の損害賠償」の危険が現実化しつつあるとの懸念が強まってきた。
米国政府、湾岸各州、沿岸警備隊などが協力して、環境汚染対策を行っているが、すでに総延長200kmに達するオイルフェンス(booms)が張られたが、沿岸警備隊は、最終的に10万kmのオイルフェンスを設置できるよう準備しているとしている。そのような量のオイルフェンスが果たして確保できるかどうかがまず問題となっている。
「ギリシャ危機」救済措置は、「ユーロ危機」の解決にはならない
木曜日, 5 月 13th, 20102010年5月11日(火)
EU財務相理事会は月曜日、ギリシャ債務危機の波及を防ぐため、IMFと協調して最大で7500億ユーロの緊急措置を実施することで合意し、EU体制の存続の危機に対して異色の団結心(the extraordinary show of solidarity)を内外に示した。
株式市場はこの巨額支援に直ちに反応して、ダウ工業株30種は404.71ドル高の10785.14ドル、NASDAQ総合指数は109.03ポイント高の2374.67、S&P総合500種は48.85ポイント高の1159.73となった。
これは、米政府が銀行からの不良資産買い取り計画(TARP)を発表した昨年3月23日以来の大幅な上げである。
The Wall Street Journalなどほとんどのメディアは、手放しでこの株式市場の反転上昇を報じているが、The New York Timesは、この100兆円に上る緊急支援策について、その永続的効果に対して疑問を呈している。
まず今回の支援策だけではギリシャを始めとする各国の財政赤字を本質的に解決するものではないと指摘している。単に財政危機に陥った国を、市場の厳しい裁断から隔離しただけではないのか、各国の政府首脳が国民に対して歳出削減、債務削減といった厳しい政治的選択を迫らずに済むようにしただけではないのかと批判している。
こうした冷静な判断は、市場が通貨ユーロが日中にジリ安になったこと、市中銀行間の貸借金利が高止まりしたことになって示されたといえる。Moody’s Investor Serviceが、「同国の経済先行きは暗い(dismal)」として、ギリシャ国債を投資不適格の「ジャンク債」へと格付けを落とすことを発表したのも同じ線上にある懸念表明である。
同紙はあるエコノミストの次のような直裁な指摘を掲載しているが、まさにこの言葉こそ「王様は裸だ」と寓話の名言に匹敵する。
“Lending more money to already over-borrowed governments does not solve their problems,”「借金漬けの政府に、追い貸しをすることは解決にならない」。問題はユーロ通貨同盟のシステム
ゴールドマン刑事訴追か?株価急落
土曜日, 5 月 1st, 20102010年5月1日(土)
「ゴールドマン・サックスに対する刑事訴追(criminal charges)を連邦検察当局が検討している」と、木曜日夜The Wall Street Journal電子版が報道したことに反応して、同行の株価は金曜日NY証券株式市場で9.4%の下げを記録した。この結果同行の株式時価総額(its market capitalization)から約8000億円が一日で消し飛んだ。
去る16日にSEC(米国証券取引委員会)が、同行を詐欺の民事事件(civil suits)として提訴したが、さらに今週議会上院小委員会でCEO以下幹部社員が召還され、金融危機の引き金を引いたとして厳しい査問を受けた。
そして今週に入って新たに62人の下院議員が法務省に対し、捜査開始を要求する書簡を送っていることもあり、連邦検察当局が捜査を開始するのは当然の帰結といえる。
先週同行が、第一四半期決算で、昨年同期比で純益が倍増したとの発表も、同行へ米国や欧州において司直の厳しい目が向けられている事態を前に、先行き不安を払拭する力はなかった。16日の株価水準からすると同社の時価総額は2週間で約20%、2兆円相当が消滅したことになる。
The New York Timesは、検察当局の捜査報道を嫌気して「Standard & Poor’s が同社株に対するアナリストの投資判断を、Hold(保持)からSell(売り)に、またBank of America Merrill LynchがBuy(買い)からNeutral(中立)に落とした」ことを報じている。
問題の金融商品CDOは、ゴールドマンが組成した住宅ローンを担保とした仕組み金融商品Abacus 2007-AC1である。その仕組み過程に問題があったとするSECの訴因については、本欄ですでに取り上げてきたが、ゴールドマンは徹底抗戦の構えである。
同行が強気なのは破綻したBear Sterns証券での類似訴訟で検察が陪審員の判定に敗れたことが自信につながっているようだとNYTは分析している。
さて、日本のゴールデンウィークのころに、「投資の神様、オマハの預言者」ウォーレン・バッフェット氏が、「投資家のウッドストック」と呼ばれるBerkshire Hathaway社の株主総会を行うが、今年もまた今週末ネブラスカ州オマハに召集している。
同社は、ゴールドマンに総額5兆円の投資を行っている。上記の株価下落は投資資産の大きな目減りとなっているなか、4万人と予想される一般株主にどう説明するかが、大きな注目点である。バッフェットの対ゴールマン投資姿勢についての説明が、ゴールドマンの将来を決定付けるといっても過言ではない。
ギリシャ危機深刻化、IMF/EU協調融資決定にも市場納得せず
水曜日, 4 月 28th, 20102010年4月27日(火)
ギリシャ救済が大詰めを迎えているが、EU内でも最大の救済資金拠出国となるドイツのメルケル首相が、ドイツがギリシャ支援方向であることをメディアに明らかにした。
これをBBCは「メルケル首相は、ギリシャが一定の条件(certain conditions)を実行すれば、援助を実行するとの立場」と報じ、一方The New York Timesは、「メルケル首相は、ギリシャが緊縮財政政策をより強化することを遵守することを強く求めた」ことを強調し、表現に差が出ている。
それを反映して、NYTは、そのトップ記事の見出しを「ギリシャ債務問題への信認またもや低下」として、ギリシャ国債がさらに値を崩し新安値となったことと、ユーロも対ドル、対ポンドで安値となったことを報じた。
現在火急の問題としてIMFとEUがギリシャに対する約6兆円の緊急協調援助を協議中であるが、それによって「5月危機」を乗り切れても、いずれにせよ同国の巨額な対外債務返済はその先は無理とする見方が有力となってきたのである。
投資家の信認低下によって、月曜日に10年物国債は9.5%まで上昇しており、こうした高利借入コストの上昇のもとでは、ギリシャが「2012年までに財政再建を果たせねばならない」という条件の実行は、GDPの115%に及ぶ債務返済に苦しむなかでは無理だろうとの反応が出始めた。
その事態を、NYの市場関係者は、「市場は、債務リスケを織り込み始めた」(“The market is now pricing in a debt rescheduling,”)と、NYTに語っている。
大幅な債務カット(deep haircuts)と、返済繰り延べ(rescheduling)は、これまでも中進国や最貧国では常態化してきたが、EU加盟国で通貨ユーロに参加している国としては、欧州通貨同盟の歴史上初めての事態である。
EU加盟国の中では、ギリシャにユーロ通貨を放棄させるべしとの議論も出てきたが、メルケル首相は、月曜日記者団に、「ギリシャのユーロ圏追放はない」と言下に否定した(rejected the idea of expelling Greece from the eurozone)。
ポルトガル、アイルランド、スペインとギリシャはPIGSと不名誉なあだ名で一まとめに呼ばれているが、万一ギリシャがユーロ内にとどまれなければ、影響はこれらの国にも波及して行くのは不可避である。
月曜日ポルトガル、アイルランドの国債の利率もギリシャとともに上昇した。